【人類の未来を予見したか?】1970年代に行われた、ジョン・B・カルフーン博士による「ユニバース25」実験の詳細とその教訓を徹底解説します。
ユニバース25実験とは何か?
「ユニバース25(Universe 25)」は、アメリカの動物行動学者ジョン・B・カルフーン博士が1968年から1972年にかけて行った、マウスの個体群に関する大規模な社会行動実験です。カルフーン博士は、ネズミを使った同様の実験を過去24回行っており、その25回目の試みとして最も有名になったため、この名前が付けられました。
実験の目的と環境
実験の根本的な問いは、「もし動物に無限の資源と究極の安全が与えられたら、彼らの社会はどうなるか?」というものでした。
- 環境:約2.7平方メートル四方の金属製の箱(ユニバースと命名)。最大3,840匹を収容できるように設計されていました。
- 資源:食料と水は常に補充され、事実上無限でした。
- 安全:捕食者、病気、悪天候といった外的ストレス要因は全て排除されました。
- 唯一の制限要因:空間(物理的なスペース)でした。
絶望的な「4つのフェーズ」
実験は、初期の8匹のマウスから始まり、最終的に個体群が崩壊するまで、大きく4つの段階を経て進行しました。
フェーズA:適応期(0日目〜104日目)
投入されたマウスたちが新しい環境に適応する期間です。
最初は戸惑いながらも、徐々に生活基盤を築き、実験開始から約104日後に最初の出産が見られました。
フェーズB:資源活用期(105日目〜315日目)
個体数が指数関数的に増加する時期です。約55日ごとに個体数が倍加し、社会的なヒエラルキー(序列)が確立されました。
強いオスがテリトリーとメスを確保し、活発な繁殖活動が行われ、この時点では「理想的な発展」が実現されているように見えました。
フェーズC:停滞と崩壊(316日目〜560日目)
人口が約600匹を超えると、成長は大幅に鈍化し、個体数が増えるにつれて社会に異変が生じます。
- 「ビヘイビア・シンク(行動の沈滞)」の発生:過密による社会的ストレスから、様々な異常行動が見られ始めました。
- 攻撃性の増加:特に明確な役割を持てないオス(排除されたオス)の間で、無差別な暴力や攻撃が増加しました。
- 育児放棄:メスは子育てができなくなり、子どもを攻撃したり、早期に巣から追い出したりする行動が見られました。
- 機能不全な社会:巣作りや求愛行動といった複雑な社会行動が失われ、無秩序な状態に陥りました。
フェーズD:死滅期(560日目〜)
この段階に至ると、もはや個体群の維持に必要な行動は失われます。
560日目以降、出産は完全に停止しました。
- 「ビューティフル・ワン」の出現:社会的な役割を完全に放棄し、他の個体との交流を避け、ただ食べて毛づくろいをするだけの受動的な個体(オス・メス問わず)が増加しました。
彼らは争いをせず、交尾や子育てにも興味を示しませんでした。 - 絶滅:繁殖活動が途絶えた結果、個体群の老齢化が進み、最終的にユニバース内の全てのマウスが死滅しました。
実験が示す「行動の沈滞」と現代社会への警鐘
ユニバース25実験の最も重要な結論は、「物理的な資源が満たされても、過密による社会的なストレスが社会構造を破壊し、個体群を滅亡に導く」という点です。カルフーン博士は、この現象を「ビヘイビア・シンク」と呼びました。
現代社会との関連性
もちろん、人間社会をマウスの実験と単純に比較することはできません。
しかし、この実験結果は、現代社会が抱える様々な問題と関連付けて論じられることがあります。
- 引きこもり、ニート:社会的な役割や居場所を見つけられず、受動的な生活を送る「ビューティフル・ワン」と重ねて考えられることがあります。
- 少子化、晩婚化:特に先進国で見られる、繁殖行動への関心の低下や、家族形成への消極性が、社会的なストレスや過密の結果ではないかという議論があります。
- 都市部の孤独:極端な過密環境の中で、かえって人々が孤立し、社会的な交流を避ける傾向は、「行動の沈滞」の一側面ではないかという見方もあります。
ユニバース25実験は、資源の有無だけでなく、適切な社会的な役割と空間が、生物の健全な生存にとって不可欠であることを示唆しています。
私たち人間社会においても、経済的な豊かさだけでなく、個人が尊重され、社会的な繋がりが維持されることの重要性を再認識させられる、深く考えさせられる実験です。
※本記事は、ジョン・B・カルフーン博士の「ユニバース25」実験に基づいた解説であり、人間社会の未来を断定するものではありません。
